子は頭《つむり》を下げた。
『大きくなりましたね、髪が長くなりましたねえ。』
嬉しさうに鏡子は云つた。元禄袖の双子《ふたご》は一つ齢《とし》下の従妹《いとこ》を左右から囲んで坐つた。暫く直つて居た榮子の頬の慄《ふる》へが母の膝に抱かれるのと一緒にまた烈《はげ》しくなつてきた。鏡子は榮子が預けてあつた里の家から帰つて来て半月《はんげつ》程で旅立つたのであるから、この子に就いての近い過去としては、里から附いて来た娘のことを、とうとの姉《ねえ》やと呼んで、いくら抱かうとしても、
『とうとの姉《ねえ》やだあい。』
と叫泣《さけびなき》をされた記憶しかない。遠い昔にはその丸十一ケ月前に生れて牛乳で育てられて居た晨がひよわな子で、どうしても今度生れたのは乳母を雇ふか里へ預けるかして育てねばならない事になつて、[#「、」は底本では脱落]乳母と云ふ鏡子の望む方の事は月に小《こ》二十円の費《かゝ》りが入ると云ふので靜の恩家《おんか》への遠慮で実行する事が出来ずに、里へ預ける事になつた時、未《ま》だ産後十七日|位《ぐらゐ》の身体《からだ》で神田の小川町へ、榮子に持たせてやる涎掛《よだれかけ》だの帽子だ
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