の律は各自の実際生活の直感と、経験と、反省と、研究と、精錬とから産み出される。貞操の如きも婦人が各自に聡明である以上、それが実際問題として自分に迫って来た時、何とか自分から積極的にその問題との交渉を片附け得られるはずである。愛情や性欲の先駆と見るべき異性に対する好奇心すら自発していない少女に早くも貞操を注入するような教育が何の益になろう。私は教育者に向っては、貞操というような実際生活の細目を一律に説くことの無駄な骨折を避けて、その代りに貞操ばかりでなく、どの実際問題に出会っても惑わず、沮喪《そそう》せず、妥協せずに、自分自身に最善を尽した生活律を建て得る「自由」と「聡明」の精神を養わせる教育に力《つと》めて欲しいと思う。また私は学者に向っては、婦人が貞操のような実際問題に出会った時の参考資料として、実際生活に対する研究の過程と結論とを常に提供して欲しいと思う。そして私たち婦人はまた自分の実際問題として研究の要求を生じた場合に初めて研究して差支《さしつかえ》のないことである。世の中のあらゆる問題は直接自分の実際生活に必要の切迫した時にのみ重大問題なのである。飢えている時は花より団子が我身
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