鏡心灯語 抄
与謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)平生《へいぜい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)清節|孤痩《こそう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]
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       *

 私は平生《へいぜい》他人の議論を読むことの好きな代りに自ら議論することを好まない。議論にはかなり固定した習性がある。即ち議論には論理を一般人の目に見えるように操縦せねばならぬ。また議論の質を表現するのが目的であるにかかわらず、量的にくどくどと細箇条を説明せねばならぬ。それが私に不得手な事であるのみならず、私自身の表現としては煩《はん》と迂《う》とに堪えない。それからまた網を作るに忙しくて肝腎の魚を忘れるような場合さえある。むしろ世間の議論の大部分はこの最後の物に属している。私はそれが厭《いと》わしい。私はロダン先生の議論――先生においては家常の談話――が常に簡素化され結晶化された無韻詩の体であるのを、私の性癖から敬慕している。私の茲《ここ》に書く物も私の端的な直観を順序に頓着《とんじゃく》しない
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