律的倫理は現代の生活に害こそあれ用をなさないものであると思う。こういえばとて私は女子の不貞不倫を肯定するのでは更々《さらさら》ない。私などは現に自分一個の貞操について保守主義者中の保守主義者であると評せられても笑って甘諾《かんだく》する位に厳粛な実行の日送りをしている。私は自分の肉を二、三にすることを非常に不純不潔なことだと思って、そういうことを想像するさえ甚しい悪感と全身の戦慄《せんりつ》とを覚える。私の生活はこれを世の強者――天才の生活に比ぶれば勿論弱者の生活である。私は世の戦いに自分の牙城《がじょう》を奪われることがあっても、是非あくまでも死守しようと思っている本城がある。そして私の貞操はその本城の一部であると思っている。しかしそれは私個人の倫理である私自身のために建てた私の律である。私は自分の建てた自分のための倫理を尊重すると同時に、他の個人の建てた倫理を尊重したい。そしてそれがお互に自由と聡明とを備えた実行の律でありたい。そのような実行の律を自ら建てて行く人こそ官学の教育を受けなくても、美衣を着けていなくても尊敬すべき時代の優良階級である。
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新しい生活
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