上に神権主義の道徳が圧力を持っていた時代でも、実際に全婦人をその貞操倫理の金科玉条で司配《しはい》することは出来なかった。二夫に見《まみ》えた女は地上到る処の帝王の家にもあった。女の再婚は大抵やむをえない事として現に寛仮《かんか》せられ、もしくは正当の事としてその父兄が強いるほどである。殊に貞操道徳の制定者である男子が好んで多数の女子の貞操を破ることが普通の現象でさえある。今の男子の多数はそういう不倫な祖先から生れ、もしくはそういう不倫な女の父兄であり、配偶者であり、縁者であり、友である。如何に死を嫌っても世に死者を出さなかった一族のない如く、真に人間を愛する人なら、最早貞操一点張りを以て女を責めるに忍びないはずである。
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私はピカデリイやグラン・ブルヴァルの繁華な大通で、倫敦《ロンドン》人や巴里《パリイ》人の車馬と群衆とが少しの喧囂《けんごう》も少しの衝突もせずに軽快な行進を続けて行くのを見て驚かずにいられなかった。そして自由に歩む者は聡明な律を各自に案出して歩んで行くものであるということを知った。
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私は貞操倫理のみならず、一般に従来の他
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