な私一人のためのみならず、日本人全体のために日本人自らが励声一番した「気を附け」の号令ではなかったか。
明治の末期このかた、妥協に妥協を重ね、虚偽に虚偽を重ねた日本人の生活は、今までに腐敗の頂点に達して、日本人自ら内部の空虚と外面の醜汚《しゅうお》とに不満を感じ、誠実に満ちた真剣の生活を無意識に期待している折から、全日本を腐敗させた病毒の府である衆議院の崩壊したことは、独り政界のみならず、あらゆる社会の惰気と腐敗とを一掃して、日本人の生活を積極的に改造する大正維新の転機が到来したことの吉兆《きっちょう》である気がしてならぬ。国民はこの政界の颶風《ぐふう》を切掛《きっかけ》に瞭然《はっきり》と目を覚し、全力を緊張させて久しくだらけていた公私の生活を振粛しようとするであろう。議会に多数を制していた政府反対党の人々も、大隈内閣の与党と称せられる人々も、もし一片の良心を存しているなら、今更のように時代の激変に驚いて、国民の前に自分たちの過去の積悪を愧《は》じ入ると共に摯実《しじつ》な内省の人に帰らざるを得ないであろう。そして時代の腐敗に愛想をつかして常に傍観者の態度を取っていた清節|孤痩《こ
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