住んでいる日本を愛せずにいられないことを知った。そして日本を愛する心と世界を愛する心との抵触しないことを私の内に経験した。
*
欧洲の旅行から帰って以来、私の注意と興味とは芸術の方面よりも実際生活に繋《つな》がった思想問題と具体的問題とに向うことが多くなった。私は芸術上の述作を読む場合にも芸術的趣味の勝《まさ》ったものよりは生活的実感の勝ったものを余計に好むようになった。忙《せわ》しい中で新聞雑誌の拾い読みをするにも、芸術上の記事を後廻しにして欧洲の戦争問題や日本の政治問題に関連した記事を第一に読むという有様である。
これは私の心境の非常な変化である。私は最近一両年の間に、日本人の生活を、どの方面からも改造することに微力を添えるのでなければ、日本人としての私の自我が満足しないのを朧《おぼ》ろげに感じるまでに変化しているのであった。
痴鈍な私は幾多の迷路を迂回して今頃ようやく祖国の上に熱愛を捧《ささ》げる一人の日本人となった。
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第三十五議会の解散は突如として私の意識を緊張させ、祖国に対する私の熱愛を明らかに自覚させた。否、この度の解散は微弱
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