ろんな空想の世界のあることを教えて私を慰めかつ励ましてくれた。私は次第に書物の中にある空想の世界に満足していられなくなった。私は専ら自由な個人となることを願うようになった。そして不思議な偶然の機会から殆ど命掛けの勇気を出して恋愛の自由を贏《か》ち得たと同時に、久しく私の個性を監禁していた旧式な家庭の檻《おり》からも脱することが出来た。また同時に私は奇蹟のように私の言葉で私の思想を歌うことが出来た。私は一挙して恋愛と倫理と芸術との三重の自由を得た。それは既に十余年前の事実である。
その以後の私に更にまたいろいろの自由を要望する意識が徐々として萌《きざ》して来た。低落した女性の位地を男子と対等の位地にまで恢復《かいふく》することはその随一の欲望であった。
そこで私は様々の妄想や誤解を抱《いだ》いた。古今の稀《まれ》に見る天才婦人や、欧洲の近代文学に現れた自由思想家の理想的仮設人物である優秀な女主人公やを標準にして、或努力次第で一躍すべての女性が――私自身も――男子と対等な利権を得られそうにさえ思われた。表面には出さなかったが、心の中では一概に男子の暴虐に反抗したい気分を満たすまで思い詰
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