》もすれば一本調子に固定しようとする生活を改造する資料として、その天才の新思想の中から或選択を試みることを断えず心掛けねばならぬ。それは我々普通人も同じことである。唯《た》だ前者にあっては自己の生活を改造した上に、更にそれを公人として当面の政治問題、教育問題、社会問題の改造に適用しようとする対他的実行が伴わねばならぬ。私は大隈《おおくま》党の実際政治にも政友会の政治意見にも、ベルグソンやロダンの現代思想と更に一点の共鳴する所さえ認めることの出来ないのを口惜《くや》しく思う。そして我々現代の若い婦人が芸術を透した欧洲現代の新思想に感激しながら一切の問題を個性の権威に即して判断しようとする大勢を作り出したことに対して、なお空疎な旧日本の他律的倫理を以て威圧しようとしている教育家、社会改良家の大多数を気の毒に思う。

       *

 私は二十歳《はたち》過ぎまで旧《ふる》い家庭の陰鬱《いんうつ》と窮屈とを極めた空気の中にいじけながら育った。私は昼の間は店頭《みせさき》と奥とを一人で掛け持って家事を見ていた。夜間の僅《わず》かな時間を偸《ぬす》んで父母の目を避けながら私の読んだ書物は、い
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