々として読みかつ書くことが出来るのです。その上すべての読本を口語体で統一すれば、特に国語読本を授ける必要もなくなり、作文も頭に浮んだ第一の思想をそのまま写せば好く、これがために子女及び教師の心力と、授業の時間とをどれだけ多く他の有用な学科に善用し得るか知れません。
文章体の言語は古代人の言語です。それは決して現代人の精神や感覚を端的に表示し得るものでなく、それを現代に役立てようとすれば、我々は先ずその型を学ばねばなりません。
また文章体の言語は、今日もなお不完全な日本文典で辛抱しているほどに、科学的に出来上った言語ではなく、直覚を以て感得せねばならぬ所の多い特殊な詩的言語であるのですから、これを現代の国民の実用語とする教育方針がもともと間違っているのです。世間には漢字の廃止を唱える人がありますけれど、漢字は放任して置いても必要なもの以外は次第に行われない傾向を持っていますが、文章語の文法はこれを教育において英断に除外しない限り、永久に国民の意思表示を困難にして、莫大《ばくだい》な禍害を国民生活に与えるものだと思います。文章語がどれだけ私たちの意志を曲げたり、稀薄にしたり、勿体《もっ
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