資本家と対等な人格的独立者としての権利的要求でなくて、徹頭徹尾資本家の隷属として社会的低位にある人間の哀訴的要求であると思います。
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私はこの物価の暴騰時代に、労働者が目前の窮乏を補足する必要から、賃銀の値上を要求することは正当過ぎる要求として勿論同感しますが、しかしこれが前述のように階級闘争の意義に遠いものである所から、この事が少しも無産階級全体の幸福とはならない事を遺憾に思います。賃銀の値上は、その要求に成功したる少数の工場労働者だけに目前の窮乏を救うだけのものです。のみならず、値上げしたる賃銀は資本家の利潤から支払われるものでなくて、資本家はきっとそれだけの増収を製品の価格を値上げすることに由って計ろうとします。例えば活版職工の賃銀の増加はてきめん印刷物の定価の引上を見ずに置きません。そうすれば、資本家と、及びその資本家と賃銀において妥協した少数の労働者とが協力して、製品の価格を不法に吊上《つりあ》げ、大多数の消費者たる無産階級を層一層物価の暴騰《ぼうとう》に由って苦《くるし》める結果を生じます。
例えば私たちのような文筆の職業に就いている者は単独的労働者
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