めば文章の組立てが若菜から違っているのに心づくはずである。必ず「上達部《かんだちめ》、殿上人《てんじょうびと》」であったものが、「諸大夫《しょだいふ》、殿上人、上達部」になっている。昔の写本、木版本でない現今の活字本で見る人は一目瞭然《いちもくりょうぜん》とわかるはずである。文章も悪い、歌も少くなった。しかも佳作はきわめて少数である。紫式部の書いた前篇は天才的な佳作に富んでいた。後の作者のにも良い作はないのでもない。
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目に近くうつれば変る世の中を
  行末《ゆくすゑ》遠く頼みけるかな
おぼつかなたれに問はましいかにして
  初めもはても知らぬ我身ぞ
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 これらの佳作は後拾遺集《ごしゅういしゅう》の秋の歌の巻頭の大弐の三位作の
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はるかなるもろこしまでも行くものは
  秋の寝ざめの心なりけり
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 この歌の詠《よ》みぶりによく似ているではないか。
 竹河《たけかわ》の巻の初めに、この話は亡くなった太政大臣家に仕えた老女房の語ったことで「紫のゆかりこよなきには似ざめれど」と書いてあるのは、前篇を書い
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