的に決定して賦課されているものがあるでしょうか。私は女子が「妊娠する」という一事を除けば、男女の性別に由って宿命的に課せられている分業というものを見出すことが出来ません。
紫式部の日記を読むと、この稀有《けう》の女流文豪が儕輩《せいはい》の批難を怖れて、平生は「一」という文字すらどう[#「どう」に傍点]して書くか知らないような風を装い、中宮《ちゅうぐう》のために楽府《がふ》を講じるにも人目を避けてそっ[#「そっ」に傍点]と秘密に講じています。女子の学問著述が男子の領分を侵している事のように、その同性の間においてさえ誤解されていて、紫式部がそれを憚《はばか》ったのは、生意気だとして憎まれるからであったのですが、しかしこれがために紫式部を「女らしさ」を欠いた人間であるとは昔も今も言わないようです。
政治や軍事は昔から男子の専任のように思っていますけれども、我国の歴史を見ただけでも、女帝があり、女子の政治家があり、女兵があり、幕末の勤王婦人等があって、それが「女子の中性化」の実例として批難されていないのみならず、神功《じんぐう》皇后は神として奉祀《ほうし》され、その他の女子も倫理的の価値
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