ですよ。」
「へええ。」
「またこうも書いてあります。――この作者早くも濫作《らんさく》をなすか。……」
「おやおや。」
僕は、不快なのを通り越して、少し莫迦《ばか》莫迦しくなった。
「いや、あなた方ばかりでなく、どの作家や画家でも、測定器にかかっちゃ、往生《おうじょう》です。とてもまやかしは利《き》きませんからな。いくら自分で、自分の作品を賞《ほ》め上げたって、現に価値が測定器に現われるのだから、駄目です。無論、仲間同志のほめ合にしても、やっぱり評価表の事実を、変える訳には行きません。まあ精々、骨を折って、実際価値があるようなものを書くのですな。」
「しかし、その測定器の評価が、確かだと云う事は、どうしてきめるのです。」
「それは、傑作をのせて見れば、わかります。モオパッサンの『女の一生』でも載せて見れば、すぐ針が最高価値を指《さ》しますからな。」
「それだけですか。」
「それだけです。」
僕は黙ってしまった。少々、角顋《かくあご》の頭が、没論理《ぼつろんり》に出来上っているような気がしたからである。が、また、別な疑問が起って来た。
「じゃ、ゾイリアの芸術家の作った物も、やはり測
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