定器にかけられるのでしょうか。」
「それは、ゾイリアの法律が禁じています。」
「何故でしょう。」
「何故と云って、ゾイリア国民が承知しないのだから、仕方がありません。ゾイリアは昔から共和国ですからな。Vox populi, vox Dei を文字通りに遵奉《じゅんぽう》する国ですからな。」
角顋は、こう云って、妙に微笑した。「もっとも、彼等の作物を測定器へのせたら、針が最低価値を指したと云う風説もありますがな。もしそうだとすれば、彼等はディレムマにかかっている訳です。測定器の正確を否定するか、彼等の作物の価値を否定するか、どっちにしても、難有《ありがた》い話じゃありません。――が、これは風説ですよ。」
こう云う拍子《ひょうし》に、船が大きく揺れたので、角顋はあっと云う間に椅子から、ころがり落ちた。するとその上へテーブルが倒れる。酒の罎《びん》と杯《さかずき》とがひっくりかえる。新聞が落ちる。窓の外の水平線が、どこかへ見えなくなる。皿の破《わ》れる音、椅子の倒れる音、それから、波の船腹へぶつかる音――、衝突だ。衝突だ。それとも海底噴火山の爆発かな。
気がついて見ると、僕は、書斎のロ
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