所、一寸《ちよつと》ありさうもないではないか。これが若し虎ぢやなしに、犬だつたら兎《と》に角《かく》。
映画
映画を横から見ると、実にみじめな気がする。どんな美人でもぺチヤンコにしか見えないのだから。
又
映画はいくら見ても直ぐにその筋を忘れて仕舞《しま》ふ。おしまひには題も何もかも忘れる。見なかつた前と一寸《ちよつと》も変りがない。本ならどんなつまらないと思つて読んだものでも、そんなにも忘れる事はないのに、実に不思議な気がする。
映画に出て来る人間が物を云つて呉《く》れたら、こんなに忘れる事はあるまいとも考へて見る。自分がお饒舌《しやべり》だからでもあるまいが。
犬
日露戦争に戦場で負傷して、衛生隊に収容されないで一晩倒れてゐたものは満洲犬にちんぼこから食はれたさうだ。その次に腹を食はれる。これは話を聞いただけでもやり切れない。
「辨妄和解」から
安井息軒《やすゐそくけん》の「辨妄和解《べんまうわかい》」は面白い本だと思ふ。これを見てゐると、日本人は非常にリアリスチツクな種族だと云ふ事を感じる。一般《いつぱん》の種々な
前へ
次へ
全6ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング