ェ。」
新田は令嬢の病室の戸をしめると、多少失望したらしい声を出したが、今度はそのすぐ前の部屋の戸を開けて、
「御覧なさい。」と、三人の客を麾《さしまね》いた。
はいって見ると、そこは湯殿のように床《ゆか》を叩《たた》きにした部屋だった。その部屋のまん中には、壺《つぼ》を埋《い》けたような穴が三つあって、そのまた穴の上には、水道栓が蛇口《じゃぐち》を三つ揃えていた。しかもその穴の一つには、坊主頭《ぼうずあたま》の若い男が、カアキイ色の袋から首だけ出して、棒を立てたように入れてあった。
「これは患者の頭を冷《ひや》す所ですがね、ただじゃあばれる惧《おそれ》があるので、ああ云う風に袋へ入れて置くんです。」
成程その男のはいっている穴では蛇口《じゃぐち》の水が細い滝になって、絶えず坊主頭の上へ流れ落ちていた。が、その男の青ざめた顔には、ただ空間を見つめている、どんよりした眼があるだけで、何の表情も浮んではいなかった。俊助は無気味を通り越して、不快な心もちに脅《おびや》かされ出した。
「これは残酷《ざんこく》だ。監獄の役人と癲狂院《てんきょういん》の医者とにゃ、なるもんじゃない。」
「君
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