ラ《エフィシエント》じゃないに違いない。が、その差別は人間が彼等の所行《しょぎょう》に与えた価値の差別だ。自然に存している差別じゃない。」
 新田の持論を知っている俊助は、二人の女と微笑を交換して、それぎり口を噤《つぐ》んでしまった。と、新田もさすがに本気すぎた彼自身を嘲るごとく、薄笑の唇を歪《ゆが》めて見せたが、すぐに真面目な表情に返ると、三人の顔を見渡して、
「じゃ一通り、御案内しましょう。」と、気軽く椅子《いす》から立ち上った。

        二十六

 三人が初めて案内された病室には、束髪《そくはつ》に結った令嬢が、熱心にオルガンを弾《ひ》いていた。オルガンの前には鉄格子《てつごうし》の窓があって、その窓から洩れて来る光が、冷やかに令嬢の細面《ほそおもて》を照らしていた。俊助《しゅんすけ》はこの病室の戸口に立って、窓の外を塞《ふさ》いでいる白椿《しろつばき》の花を眺めた時、何となく西洋の尼寺《あまでら》へでも行ったような心もちがした。
「これは長野のある資産家の御嬢さんですが、何でも縁談が調わなかったので、発狂したのだとか云う事です。」
「御可哀《おかわい》そうね。」
 辰
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