スの?」
「いや、どうしまして。」
俊助はちょいと初子に会釈《えしゃく》しながら、後はやはり野村だけへ話しかけるような態度で、
「昨日《きのう》新田《にった》から返事が来たが、月水金の内でさえあれば、いつでも喜んで御案内すると云うんだ。だからその内で都合《つごう》の好《い》い日に参観して来給え。」
「そうか。そりゃ難有《ありがと》う。――で、初子さんはいつ行って見ます?」
「いつでも。どうせ私用のない体なんですもの。野村さんの御都合で極《き》めて頂けば好いわ。」
「僕が極《き》めるって――じゃ僕も随行を仰せつかるんですか。そいつは少し――」
野村は五分刈《ごぶがり》の頭へ大きな手をやって、辟易《へきえき》したらしい気色を見せた。と、初子は眼で笑いながら、声だけ拗《す》ねた調子で、
「だって私その新田さんって方にも、御目にかかった事がないんでしょう。ですもの、私たちだけじゃ行かれはしないわ。」
「何、安田の名刺を貰って行けば、向うでちゃんと案内してくれますよ。」
二人がこんな押問答を交換していると、突然、そこへ、暁星学校《ぎょうせいがっこう》の制服を着た十《とお》ばかりの少年が、人
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