を見た。次郎も片手に太刀《たち》をかざしながら、項《うなじ》をそらせて、兄を見た。そうして刹那《せつな》に二人とも、相手の瞳《ひとみ》の奥にひそんでいる、恐ろしいものを感じ合った。が、それは、文字どおり刹那である。馬は、吠《ほ》えたける犬の群れに、脅かされたせいであろう、首を空ざまにつとあげると、前足で大きな輪をかきながら、前よりもすみやかに、空へ跳《おど》った。あとには、ただ、濛々《もうもう》としたほこりが、夜空に白く、ひとしきり柱になって、舞い上がる。次郎は、依然として、野犬の群れの中に、傷をこうむったまま、立ちすくんだ。……
太郎は――一時に、色を失った太郎の顔には、もうさっきの微笑の影はない。彼の心の中では、何ものかが、「走れ、走れ」とささやいている。ただ、一時《いっとき》、ただ、半時《はんとき》、走りさえすれば、それで万事が休してしまう。彼のする事を、いつかしなくてはならない事を、犬が代わってしてくれるのである。
「走れ、なぜ走らない?」ささやきは、耳を離れない。そうだ。どうせいつかしなくてはならない事である。おそいと早いとの相違がなんであろう。もし弟と自分の位置を換えたに
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