浮かんだ。これは、もちろん、彼にとって、少しも不快な想像ではない。いやむしろ彼の中にあるある物は、その事実である事を、祈りさえした。自分の手を下さずに、次郎を殺す事ができるなら、それはひとり彼の良心を苦しめずにすむばかりではない。結果から言えば、沙金がそのために、自分を憎む恐れもなくなってしまう。そう思いながらも、彼は、さすがに自分の卑怯《ひきょう》を恥じた。そうして口にくわえた太刀を、右手《めて》にとって、おもむろに血をぬぐった。
そのぬぐった太刀を、ちょうど鞘《さや》におさめた時である。おりから辻《つじ》を曲がった彼は、行く手の月の中に、二十と言わず三十と言わず、群がる犬の数を尽くして、びょうびょうとほえ立てる声を聞いた。しかも、その中にただ一人、太刀をかざした人の姿が、くずれかかった築土《ついじ》を背負って、おぼろげながら黒く見える。と思う間《ま》に、馬は、高くいななきながら、長い鬣《たてがみ》をさっと振るうと、四つの蹄《ひづめ》に砂煙をまき上げて、またたく暇に太郎をそこへ疾風のように持って行った。
「次郎か。」
太郎は、我を忘れて、叫びながら、険しく眉《まゆ》をひそめて、弟
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