いのくま》の家を出た。外には、やや傾きかかった日がさして、相変わらずその中を、燕《つばくら》が軽々と流れている。――
「どこへ行こう。」
 外へ出て、思わずこう小首を傾けた太郎は、ふとさっきまでは、自分が沙金《しゃきん》に会うつもりで、猪熊へ来たのに、気がついた。が、どこへ行ったら、沙金に会えるという、当てもない。
「ままよ。羅生門《らしょうもん》へ行って、日の暮れるのでも待とう。」
 彼のこの決心には、もちろん、いくぶん沙金に会えるという望みが、隠れている。沙金は、日ごろから、強盗にはいる夜《よ》には、好んで、男装束《おとこしょうぞく》に身をやつした。その装束や打ち物は、みな羅生門の楼上に、皮子《かわご》へ入れてしまってある。――彼は、心をきめて、小路《こうじ》を南へ、大またに歩きだした。
 それから、三条を西へ折れて、耳敏川《みみとがわ》の向こう岸を、四条まで下ってゆく――ちょうど、その四条の大路《おおじ》へ出た時の事である。太郎は、一町《いっちょう》を隔てて、この大路を北へ、立本寺《りゅうほんじ》の築土《ついじ》の下を、話しながら通りかかる、二人の男女《なんにょ》の姿を見た。
 
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