して、こっちの人数《にんず》は?」
「いつものとおり、男が二十三人。それにわたしと娘だけさ。阿濃《あこぎ》は、あのからだだから、朱雀門《すざくもん》に待っていて、もらう事にしようよ。」
「そう言えば、阿濃も、かれこれ臨月だったな。」
 太郎はまた、あざけるように口をゆがめた。それとほとんど同時に、雲の影が消えて、往来はたちまち、元のように、目が痛むほど、明るくなる。――猪熊《いのくま》のばばも、腰をそらせて、ひとしきり東鴉《あずまがらす》のような笑い声を立てた。
「あの阿呆《あほう》をね。たれがまあ手をつけたんだか――もっとも、阿濃《あこぎ》は次郎さんに、執心《しゅうしん》だったが、まさかあの人でもなかろうよ。」
「親のせんぎはともかく、あのからだじゃ何かにつけて不便だろう。」
「そりゃ、どうにでもしかたはあるのだけれど、あれが不承知なのだから、困るわね。おかげで、仲間の者へ沙汰《さた》をするのも、わたし一人という始末さ。真木島《まきのしま》の十郎、関山《せきやま》の平六《へいろく》、高市《たけち》の多襄丸《たじょうまる》と、まだこれから、三軒まわらなくっちゃ――おや、そう言えば、油を
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