下で、あざけるように、口をゆがめた。
「じゃ沙金《しゃきん》はまた、たれかあすこの侍とでも、懇意になったのだな。」
「なに、やっぱり販婦《ひさぎめ》か何かになって、行ったらしいよ。」
「なんになって行ったって、あいつの事だ。当てになるものか。」
「お前さんは、相変わらずうたぐり深いね。だから、娘にきらわれるのさ。やきもちにも、ほどがあるよ。」
老婆は、鼻の先で笑いながら、杖《つえ》を上げて、道ばたの蛇《ながむし》の死骸《しがい》を突っついた。いつのまにかたかっていた青蝿《あおばえ》が、むらむらと立ったかと思うと、また元のように止まってしまう。
「そんな事じゃ、しっかりしないと、次郎さんに取られてしまうよ。取られてもいいが、どうせそうなれば、ただじゃすまないからね。おじいさんでさえ、それじゃ時々、目の色を変えるんだから、お前さんならなおさらだろうじゃないか。」
「わかっているわな。」
相手は、顔をしかめながら、いまいましそうに、柳の根へつばを吐いた。
「それがなかなか、わからないんだよ。今でこそお前さんだって、そうやって、すましているが、娘とおじいさんとの仲をかぎつけた時には、まるで
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