のろ》いであろうか? 或は又理性の呪いであろうか?

   理性

 理性のわたしに教えたものは畢竟《ひっきょう》理性の無力だった。

   運命

 運命は偶然よりも必然である。「運命は性格の中にある」と云う言葉は決して等閑に生まれたものではない。

   教授

 若し医家の用語を借りれば、苟《いやし》くも文芸を講ずるには臨床的でなければならぬ筈《はず》である。しかも彼等は未《いま》だ嘗《かつ》て人生の脈搏《みゃくはく》に触れたことはない。殊に彼等の或るものは英仏の文芸には通じても彼等を生んだ祖国の文芸には通じていないと称している。

   知徳合一

 我我は我我自身さえ知らない。況《いわん》や我我の知ったことを行に移すのは困難[#「困難」は底本では「因難」]である。「知慧《ちえ》と運命」を書いたメエテルリンクも知慧や運命を知らなかった。

   芸術

 最も困難[#「困難」は底本では「因難」]な芸術は自由に人生を送ることである。尤《もっと》も「自由に」と云う意味は必ずしも厚顔にと云う意味ではない。

   自由思想家

 自由思想家の弱点は自由思想家であることである。彼は到底
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