小説
本当らしい小説とは単に事件の発展に偶然性の少ないばかりではない。恐らくは人生に於けるよりも偶然性の少ない小説である。
文章
文章の中にある言葉は辞書の中にある時よりも美しさを加えていなければならぬ。
又
彼等は皆|樗牛《ちょぎゅう》のように「文は人なり」と称している。が、いずれも内心では「人は文なり」と思っているらしい。
女の顔
女は情熱に駆られると、不思議にも少女らしい顔をするものである。尤《もっと》もその情熱なるものはパラソルに対する情熱でも差支えない。
世間智
消火は放火ほど容易ではない。こう言う世間智の代表的所有者は確かに「ベル・アミ」の主人公であろう。彼は恋人をつくる時にもちゃんともう絶縁することを考えている。
又
単に世間に処するだけならば、情熱の不足などは患わずとも好い。それよりも寧《むし》ろ危険なのは明らかに冷淡さの不足である。
恒産
恒産のないものに恒心のなかったのは二千年ばかり昔のことである。今日では恒産のあるものは寧ろ恒心のないものらしい。
彼等
わたしは実は
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