こにいないことである。そのうちに突然部屋全体は凄《すさ》まじい煙の中に爆発してしまう。あとは唯一面の焼野原ばかり。が、それも暫《しばら》くすると、一本の柳が川のほとりに生えた、草の長い野原に変りはじめる。その又野原から舞い上る、何羽とも知れない白鷺《しらさぎ》の一群。………
41[#「41」は縦中横]
前の岬の上。「さん・せばすちあん」は望遠鏡を持ち、何か船長と話している。船長はちょっと頭を振り、空の星を一つとって見せる。「さん・せばすちあん」は身をすさらせ、慌《あわ》てて十字を切ろうとする。が、今度は切れないらしい。船長は星を手の平にのせ、彼に「見ろ」と云う手真似をする。
42[#「42」は縦中横]
星をのせた船長の手の平。星は徐《おもむ》ろに石ころに変り、石ころは又|馬鈴薯《じゃがいも》に変り、馬鈴薯は三度目に蝶に変り、蝶は最後に極く小さい軍服姿のナポレオンに変ってしまう。ナポレオンは手の平のまん中に立ち、ちょっとあたりを眺めた後、くるりとこちらへ背中を向けると、手の平の外へ小便をする。
43[#「43」は縦中横]
前の山みち。「さん・せばすちあ
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