っせとタイプライタアを叩《たた》いている。そこへ紅毛人の婆さんが一人静かに戸をあけて女に近より、一封の手紙を出しながら、「読んで見ろ」と云う手真似《てまね》をする。女は電灯の光の中にこの手紙へ目を通すが早いか、烈《はげ》しいヒステリイを起してしまう。婆さんは呆気《あっけ》にとられたまま、あとずさりに戸口へ退いて行《ゆ》く。
39[#「39」は縦中横]
望遠鏡に映った第四の光景。表現派の画に似た部屋の中に紅毛人の男女《なんにょ》が二人テエブルを中に話している。不思議な光の落ちたテエブルの上には試験管や漏斗《じょうご》や吹皮《ふいご》など。そこへ彼等よりも背の高い、紅毛人の男の人形が一つ無気味にもそっと戸を押しあけ、人工の花束を持ってはいって来る。が、花束を渡さないうちに機械に故障を生じたと見え、突然男に飛びかかり、無造作に床の上に押し倒してしまう。紅毛人の女は部屋の隅に飛びのき、両手に頬《ほお》を抑えたまま、急にとめどなしに笑いはじめる。
40[#「40」は縦中横]
望遠鏡に映った第五の光景。今度も亦前の部屋と変りはない。唯《ただ》前と変っているのは誰《たれ》もそ
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