昔にも沢山あるが、これと同じやうに親子、夫婦の間には虚偽の生活、瞞着《まんちやく》し合ふ生活が少くない。子供たちが恋仲になり、続いて結婚しようとする所謂《いはゆる》自由結婚と信じてゐるものゝ中《うち》に、あらゆる媒酌結婚の長所を取入れさせるだけの用意を持つてゐない親達は馬鹿であると共に、自分たちの恋愛結婚を、形式上媒酌人は立てゝもいゝから、父母を始として周囲の人たちの眼に、立派な結婚らしく映らせることの出来ない子供達、言葉を換へて云ふなら、親達が正式の結婚と信じてゐるものゝ中に、あらゆる自由結婚の長所を含ませるだけの働のない子供達は、これ亦《ま》た聡明を欠いてゐるといはなければならぬ。この点について、しつかりした考へを持つてゐる親子が揃ふと理想的の親子といへる。又かういふ親子ばかりだと、世の中は平和に面白く行くわけなんだが、事実かゝる怜悧《りこう》な親達も子供達も少いものである。
 英国のハンキングの戯曲中に次のやうなのがあつた。或る財産家の息子が、小間使《パーラーメイド》だつたと記憶してゐるが。兎に角一人の田舎者《ラスチツク》の少女と恋に陥つたところ、母親は別に何とも言はないで、その
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