な。)
  足袋《たび》を干《ほ》す畠の木にも枝のなり   隆一

     2

 堀辰雄《ほりたつを》君も僕よりは年少である。が、堀君の作品も凡庸ではない。東京人、坊ちやん、詩人、本好き――それ等の点も僕と共通してゐる。しかし僕のやうに旧時代ではない。僕は「新感覚」に恵まれた諸家の作品を読んでゐる。けれども堀君はかう云ふ諸家に少しも遜色《そんしよく》のある作家ではない。次の詩は決して僕の言葉の誇張でないことを明らかにするであらう。
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硝子《ガラス》の破れてゐる窓
僕の蝕歯《むしば》よ
夜《よる》になるとお前のなかに
洋燈《ランプ》がともり
ぢつと聞いてゐると
皿やナイフの音がして来る。
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 堀君の小説も亦《また》この詩のやうな特色を具《そな》へたものである。年少の作家たちは明日《あす》にも続々と文壇に現れるであらう。が、堀君もかう云ふ作家たちの中にいつか誰も真似手《まねて》のない一人《ひとり》となつて出ることは確かである。由来我々日本人は「早熟にして早老」などと嘲《あざけ》られ易い。が、熱帯の女人《によにん》の十三にして懐妊《くわいにん
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