麝香《じゃこう》か何かのように重苦しい※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]さえするのです。私はあまりの不思議さに、何度も感嘆《かんたん》の声を洩《もら》しますと、ミスラ君はやはり微笑したまま、また無造作《むぞうさ》にその花をテエブル掛の上へ落しました。勿論落すともとの通り花は織り出した模様になって、つまみ上げること所か、花びら一つ自由には動かせなくなってしまうのです。「どうです。訳はないでしょう。今度は、このランプを御覧なさい。」
ミスラ君はこう言いながら、ちょいとテエブルの上のランプを置き直しましたが、その拍子《ひょうし》にどういう訳か、ランプはまるで独楽《こま》のように、ぐるぐる廻り始めました。それもちゃんと一所《ひとところ》に止ったまま、ホヤを心棒《しんぼう》のようにして、勢いよく廻り始めたのです。初《はじめ》の内は私も胆《きも》をつぶして、万一火事にでもなっては大変だと、何度もひやひやしましたが、ミスラ君は静に紅茶を飲みながら、一向騒ぐ容子《ようす》もありません。そこで私もしまいには、すっかり度胸が据《すわ》ってしまって、だんだん早くなるランプの運動を、眼も離さず眺
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