チ》の火をうつしながら、
「確かあなたの御使いになる精霊《せいれい》は、ジンとかいう名前でしたね。するとこれから私が拝見する魔術と言うのも、そのジンの力を借りてなさるのですか。」
 ミスラ君は自分も葉巻へ火をつけると、にやにや笑いながら、※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》の好い煙を吐いて、
「ジンなどという精霊があると思ったのは、もう何百年も昔のことです。アラビヤ夜話《やわ》の時代のこととでも言いましょうか。私がハッサン・カンから学んだ魔術は、あなたでも使おうと思えば使えますよ。高が進歩した催眠術《さいみんじゅつ》に過ぎないのですから。――御覧なさい。この手をただ、こうしさえすれば好いのです。」
 ミスラ君は手を挙げて、二三度私の眼の前へ三角形のようなものを描きましたが、やがてその手をテエブルの上へやると、縁へ赤く織り出した模様の花をつまみ上げました。私はびっくりして、思わず椅子《いす》をずりよせながら、よくよくその花を眺めましたが、確かにそれは今の今まで、テエブル掛の中にあった花模様の一つに違いありません。が、ミスラ君がその花を私の鼻の先へ持って来ると、ちょうど
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