ウれない。しかし僕にはなつかしい本の一つである。ピルグリムス・プログレスは、日本でも訳して天路歴程《てんろれきてい》と云ふが、これはこの本に学んだのであらう。本文《ほんもん》の訳もまづ正しい。所々《しよ/\》の詩も韻文訳《いんぶんやく》である。「路旁生命水清流《ろばうのせいめいみづきよくながる》 天路行人喜暫留《てんろのかうじんよろこびしばらくとどまる》 百果奇花供悦楽《ひやくくわきくわえつらくにきようす》 吾儕幸得此埔遊《わがさいさいはひにえたりこのほのいう》」――大体こんなものと思へば好《よ》い。面白いのは銅版画の挿画《さしゑ》に、どれも支那人が描《か》いてある事である。Beautiful の宮殿へ来た所なども、やはり支那風の宮殿の前に、支那人の Christian が歩いてゐる。この本は清朝《しんてう》の同治《どうぢ》八年(千八百六十九年)蘇松《そしよう》上海《シヤンハイ》華草書院《くわさうしよいん》の出版である。序に「至咸豊三年中国士子与耶蘇教師参訳始成《かんぽうさんねんにいたりちうこくのししやそけうしとさんやくはじめてなる》」とあるから、この前にも訳本は出てゐたものらしい。訳
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