BRABBADAと綴りますがね。まだあなたは見ないのですか? あの伽藍《がらん》の中にある……」
僕「ああ、あの豚の頭をした、大きい蜥蜴の偶像ですか?」
老人「あれは蜥蜴《とかげ》ではありません。天地を主宰《しゅさい》するカメレオンですよ。きょうもあの偶像の前に大勢《おおぜい》お時儀《じぎ》をしていたでしょう。ああ云う連中は野菜の売れる祈祷の言葉を唱《とな》えているのです。何しろ最近の新聞によると、紐育《ニュウヨオク》あたりのデパアトメント・ストアアはことごとくあのカメレオンの神託《しんたく》の下《くだ》るのを待った後《のち》、シイズンの支度《したく》にかかるそうですからね。もう世界の信仰はエホバでもなければ、アラアでもない。カメレオンに帰《き》したとも云われるくらいです。」
僕「あの伽藍《がらん》の祭壇の前にも野菜が沢山積んでありましたが、……」
老人「あれはみんな牲《にえ》ですよ。サッサンラップ島のカメレオンには去年売れた野菜を牲《にえ》にするのですよ。」
僕「しかしまだ日本には……」
老人「おや、誰か呼んでいますよ。」
僕は耳を澄まして見た。なるほど僕を呼んでいるら
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