た後《のち》、素直に良平の云う事を聞いた。
 晴れた空のどこかには雲雀《ひばり》の声が続いていた。二人の子供はその声の下に二本芽《にほんめ》の百合を愛しながら、大真面目《おおまじめ》にこう云う約束を結んだ。――第一、この百合の事はどんな友だちにも話さない事。第二、毎朝学校へ出る前、二人一しょに見に来る事。……

       ―――――――――――――――――――――――――

 翌朝《よくあさ》二人は約束通り、一しょに百合《ゆり》のある麦畑へ来た。百合は赤い芽の先に露の玉を保っていた。金三《きんぞう》は右のちんぼ芽を、良平《りょうへい》は左のちんぼ芽を、それぞれ爪で弾《はじ》きながら、露の玉を落してやった。
「太いねえ!――」
 良平はその朝もいまさらのように、百合の芽の立派《りっぱ》さに見惚《みと》れていた。
「これじゃ五年経っただね。」
「五年ねえ?――」
 金三はちょいと良平の顔へ、蔑《さげ》すみに満ちた目を送った。
「五年ねえ? 十年くらいずらじゃ。」
「十年! 十年ってわしより年上《としうえ》かね?」
「そうさ。お前さんより年上ずらじゃ。」
「じゃ花が十《とお》咲くかね?」
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