そこには金三の云った通り、赤い葉を巻いた百合の芽が二本、光沢《つや》の好《い》い頭を尖《とが》らせていた。彼は話には聞いていても、現在この立派《りっぱ》さを見ると、声も出ないほどびっくりしてしまった。
「ね、太かろう。」
金三はさも得意そうに良平の顔へ目をやった。が、良平は頷《うなず》いたぎり、百合の芽ばかり見守っていた。
「ね、太かろう。」
金三はもう一度繰返してから、右の方の芽にさわろうとした。すると良平は目のさめたように、慌《あわ》ててその手を払いのけた。
「あっ、さわんなさんなよう、折れるから。」
「好《い》いじゃあ、さわったって。お前さんの百合じゃないに!」
金三はまた怒り出した。良平も今度は引きこまなかった。
「お前さんのでもないじゃあ。」
「わしのでないって、さわっても好《い》いじゃあ。」
「よしなさいってば。折れちまうよう。」
「折れるもんじゃよう。わしはさっきさんざさわったよう。」
「さっきさんざさわった」となれば、良平も黙るよりほかはなかった。金三はそこへしゃがんだまま、前よりも手荒《てあら》に百合の芽をいじった。しかし三寸に足りない芽は動きそうな気色《けしき
前へ
次へ
全12ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング