《かんどう》を受けている事、今はあぶれものの仲間にはいっている事、今夜父の家《うち》へ盗みにはいった所が、計《はか》らず甚内にめぐり合った事、なおまた父と甚内との密談も一つ残らず聞いた事、――そんな事を手短《てみじか》に話しました。が、甚内は不相変《あいかわらず》、黙然《もくねん》と口を噤《つぐ》んだまま、冷やかにわたしを見ているのです。わたしはその話をしてしまうと、一層膝を進ませながら、甚内の顔を覗《のぞ》きこみました。
「北条一家《ほうじょういっか》の蒙《こうむ》った恩は、わたしにもまたかかっています。わたしはその恩を忘れないしるしに、あなたの手下《てした》になる決心をしました。どうかわたしを使って下さい。わたしは盗みも知っています。火をつける術《すべ》も知っています。そのほか一通りの悪事だけは、人に劣《おと》らず知っています。――」
しかし甚内は黙っています。わたしは胸を躍らせながら、いよいよ熱心に説き立てました。
「どうかわたしを使って下さい。わたしは必ず働きます。京、伏見《ふしみ》、堺《さかい》、大阪、――わたしの知らない土地はありません。わたしは一日に十五里歩きます。力も
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