の高は、どのくらいだと尋ねるのでございます。わたしは思わず苦笑《くしょう》致しました。盗人に金を調達して貰う、――それが可笑《おか》しいばかりではございません。いかに阿媽港甚内でも、そう云う金があるくらいならば、何もわざわざわたしの宅へ、盗みにはいるにも当りますまい。しかしその金高《きんだか》を申しますと、甚内は小首《こくび》を傾けながら、今夜の内にはむずかしいが、三日も待てば調達しようと、無造作《むぞうさ》に引き受けたのでございます。が、何しろ入用なのは、六千貫と云う大金でございますから、きっと調達出来るかどうか、当《あ》てになるものではございません。いや、わたしの量見《りょうけん》では、まず賽《さい》の目をたのむよりも、覚束《おぼつか》ないと覚悟をきめていました。
 甚内はその夜《よ》わたしの家内に、悠々と茶なぞ立てさせた上、凩《こがらし》の中を帰って行きました。が、その翌日になって見ても、約束の金は届きません。二日目も同様でございました。三日目は、――この日は雪になりましたが、やはり夜《よ》に入ってしまった後《のち》も、何一つ便りはありません。わたしは前に甚内の約束は、当にして居
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