でも、自由自在に出て行かれます。ついてはどうか呉々《くれぐれ》も、恩人「ぽうろ」の魂のために、一切|他言《たごん》は慎《つつし》んで下さい。
北条屋弥三右衛門の話
伴天連《ばてれん》様。どうかわたしの懺悔《ざんげ》を御聞き下さい。御承知でも御座いましょうが、この頃世上に噂の高い、阿媽港甚内《あまかわじんない》と云う盗人《ぬすびと》がございます。根来寺《ねごろでら》の塔に住んでいたのも、殺生関白《せっしょうかんぱく》の太刀《たち》を盗んだのも、また遠い海の外《そと》では、呂宋《るそん》の太守を襲ったのも、皆あの男だとか聞き及びました。それがとうとう搦《から》めとられた上、今度一条|戻《もど》り橋《ばし》のほとりに、曝《さら》し首《くび》になったと云う事も、あるいは御耳にはいって居りましょう。わたしはあの阿媽港甚内に一方《ひとかた》ならぬ大恩を蒙《こうむ》りました。が、また大恩を蒙っただけに、ただ今では何とも申しようのない、悲しい目にも遇《あ》ったのでございます。どうかその仔細《しさい》を御聞きの上、罪びと北条屋弥三右衛門《ほうじょうややそうえもん》にも、天帝の御愛憐を御祈
前へ
次へ
全38ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング