う》大股《おおまた》に中尉の側へ歩み寄った。中尉はきょうも葬式よりは婚礼の供にでも立ったように欣々《きんきん》と保吉へ話しかけた。
「好《い》い天気ですなあ。……あなたは今葬列に加わられたんですか?」
「いや、ずっと後《うし》ろにいたんです。」
 保吉はさっきの顛末《てんまつ》を話した。中尉は勿論葬式の威厳を傷《きずつ》けるかと思うほど笑い出した。
「始めてですか、葬式に来られたのは?」
「いや、重野少尉の時にも、木村大尉の時にも出て来たはずです。」
「そう云う時にはどうされたですか?」
「勿論校長や科長よりもずっとあとについていたんでしょう。」
「そりゃどうも、――大将格になった訣《わけ》ですな。」
 葬列はもう寺に近い場末《ばすえ》の町にはいっている。保吉は中尉と話しながら、葬式を見に出た人々にも目をやることを忘れなかった。この町の人々は子供の時から無数の葬式を見ているため、葬式の費用を見積《みつも》ることに異常の才能を生じている。現に夏休みの一日前に数学を教える桐山《きりやま》教官のお父さんの葬列の通った時にも、ある家の軒下《のきした》に佇《たたず》んだ甚平《じんべい》一つの老人
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