×          ×

 本多少佐の葬式の日は少しも懸《か》け価《ね》のない秋日和《あきびより》だった。保吉はフロック・コオトにシルク・ハットをかぶり、十二三人の文官教官と葬列のあとについて行った。その中《うち》にふと振り返ると、校長の佐佐木《ささき》中将を始め、武官では藤田大佐だの、文官では粟野《あわの》教官だのは彼よりも後《うし》ろに歩いている。彼は大いに恐縮したから、直《すぐ》後ろにいた藤田大佐へ「どうかお先へ」と会釈《えしゃく》をした。が、大佐は「いや」と云ったぎり、妙ににやにや笑っている。すると校長と話していた、口髭《くちひげ》の短い粟野教官はやはり微笑を浮かべながら、常談《じょうだん》とも真面目《まじめ》ともつかないようにこう保吉へ注意をした。
「堀川君。海軍の礼式じゃね、高位高官のものほどあとに下《さが》るんだから、君はとうてい藤田さんの後塵《こうじん》などは拝せないですよ。」
 保吉はもう一度恐縮した。なるほどそう云われて見れば、あの愛敬《あいきょう》のある田中中尉などはずっと前の列に加わっている。保吉は※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそ
前へ 次へ
全18ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング