るものであらう。が、かう云ふ問題は作家以外の人々には余り興味のないことかも知れない。僕は唯初期の志賀直哉氏さへ、立派なテクニイクの持ち主だつたことを手短かに示したいと思ふだけである。
――煙管《きせる》は女持でも昔物で今の男持よりも太く、ガツシリした拵《こしら》へだつた。吸口の方に玉藻《たまも》の前《まへ》が檜扇《ひあふぎ》を翳《かざ》して居る所が象眼《ざうがん》になつてゐる。……彼は其の鮮《あざやか》な細工に暫く見惚《みと》れて居た。そして、身長の高い、眼の大きい、鼻の高い、美しいと云ふより総《すべ》てがリツチな容貌をした女には如何にもこれが似合ひさうに思つた。――
これは「彼と六つ上の女」の結末である。
――代助は花瓶の右手にある組み重ねの書棚の前へ行つて、上に載せた重い写真帖を取り上げて、立ちながら、金の留金《とめがね》を外して、一枚二枚と繰り始めたが、中頃まで来てぴたりと手を留めた。其処には二十歳位の女の半身がある。代助は眼を俯《ふ》せて凝《ぢつ》と女の顔を見詰めてゐた。――
これは「それから」の第一回の結末である。
出門日已遠《しゆつもんひすでにとほし》 不受徒旅欺
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