をつけよう。馬の脚でもないよりは好《い》い。ちょっと脚だけ持って来給え。」
 二十《はたち》前後の支那人は大机の前を離れると、すうっとどこかへ出て行ってしまった。半三郎は三度《さんど》びっくりした。何《なん》でも今の話によると、馬の脚をつけられるらしい。馬の脚などになった日には大変である。彼は尻もちをついたまま、年とった支那人に歎願した。
「もしもし、馬の脚だけは勘忍《かんにん》して下さい。わたしは馬は大嫌《だいきら》いなのです。どうか後生《ごしょう》一生のお願いですから、人間の脚をつけて下さい。ヘンリイ何《なん》とかの脚でもかまいません。少々くらい毛脛《けずね》でも人間の脚ならば我慢《がまん》しますから。」
 年とった支那人は気の毒そうに半三郎を見下《みおろ》しながら、何度も点頭《てんとう》を繰り返した。
「それはあるならばつけて上げます。しかし人間の脚はないのですから。――まあ、災難《さいなん》とお諦《あきら》めなさい。しかし馬の脚は丈夫ですよ。時々|蹄鉄《ていてつ》を打ちかえれば、どんな山道でも平気ですよ。……」
 するともう若い下役《したやく》は馬の脚を二本ぶら下げたなり、すう
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