り]
是等の動詞の用法は海彼岸の文学の字眼《じがん》から学んだのではないであらうか? 字眼とは一字の工《こう》の為に一句を穎異《えいい》ならしめるものである。例へば下に引用する岑参《しんしん》の一聯に徴《ちよう》するがよい。
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孤燈燃[#「燃」に白丸傍点]客夢 寒杵搗[#「搗」に白丸傍点]郷愁
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けれども学んだと断言するのは勿論頗る危険である。芭蕉はおのづから海彼岸の詩人と同じ表現法を捉へたかも知れない。しかし下に挙げる一句もやはり暗合に外ならないであらうか?
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鐘消えて[#「消えて」に傍点]花の香は撞く[#「撞く」に傍点]夕べかな
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僕の信ずる所によれば、これは明らかに朱飲山《しゆいんさん》の所謂《いはゆる》倒装法を俳諧に用ひたものである。
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紅稲[#「紅稲」に白丸傍点]啄残鸚鵡[#「鸚鵡」に白丸傍点]粒 碧梧[#「碧梧」に白丸傍点]棲老鳳凰[#「鳳凰」に白丸傍点]枝
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上に挙げたのは倒装法を用ひた、名高い杜甫の一聯である。この一聯を尋常に
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