ひ》、病蚕《びやうさん》といへる言葉のおもしろければ、
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黄鳥《うぐひす》や竹の子藪に老《おい》を啼《なく》
さみだれや飼蚕《かひこ》煩《わづら》ふ桑の畑
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斯く二句を作り侍りしが、鴬は筍藪《たけのこやぶ》といひて老若《らうにやく》の余情もいみじく籠《こも》り侍らん。蚕は熟語をしらぬ人は心のはこびをえこそ聞くまじけれ。是は筵《むしろ》の一字を入れて家に飼ひたるさまあらんとなり。」
白楽天の長慶集《ちやうけいしふ》は「嵯峨《さが》日記」にも掲げられた芭蕉の愛読書の一つである。かう云ふ詩集などの表現法を換骨奪胎《くわんこつだつたい》することは必しも稀ではなかつたらしい。たとへば芭蕉の俳諧はその動詞の用法に独特の技巧を弄してゐる。
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一声《ひとこゑ》の江《え》に横たふ[#「横たふ」に傍点]や時鳥《ほととぎす》
立石寺《りつしやくじ》(前書略)
閑《しづか》さや岩にしみ入る[#「しみ入る」に傍点]蝉の声
鳳来寺に参籠して
木枯《こがらし》に岩吹とがる[#「岩吹とがる」に傍点]杉間《すぎま》かな
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