と笠
春雨や暮れなんとしてけふもあり
柴漬《ふしづけ》や沈みもやらで春の雨
春雨やいざよふ月の海半ば
春雨や綱が袂に小提灯《こぢやうちん》
西の京にばけもの栖《す》みて久しく
あれ果たる家有りけり。
今は其沙汰なくて、
春雨や人住みて煙《けぶり》壁を洩る
物種《ものだね》の袋濡らしつ春の雨
春雨や身にふる頭巾《づきん》着たりけり
春雨や小磯の小貝濡るるほど
滝口《たきぐち》に灯を呼ぶ声や春の雨
ぬなは生《お》ふ池の水《み》かさや春の雨
夢中吟
春雨やもの書かぬ身のあはれなる
[#ここで字下げ終わり]
この蕪村の十二句は目に訴へる美しさを、――殊に大和絵らしい美しさを如何にものびのびと表はしてゐる。しかし耳に訴へて見ると、どうもさほどのびのびとしない。おまけに十二句を続けさまに読めば、同じ「調べ」を繰り返した単調さを感ずる憾《うら》みさへある。が、芭蕉はかう云ふ難所に少しも渋滞《じふたい》を感じてゐない。
[#ここから3字下げ]
春雨や蓬《よもぎ》をのばす草の道
赤坂にて
無性《ぶしやう》さやかき起されし春の雨
[#ここで字下げ終わり]
僕はこの芭蕉の二句の中《う
前へ
次へ
全34ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング