とはつまり社会的なメンスツラチオンと云うことだね。……」
彼は翌年の七月には岡山《おかやま》の六高《ろっこう》へ入学した。それからかれこれ半年《はんとし》ばかりは最も彼には幸福だったのであろう。彼は絶えず手紙を書いては彼の近状を報告してよこした。(その手紙はいつも彼の読んだ社会科学の本の名を列記していた。)しかし彼のいないことは多少僕にはもの足《た》らなかった。僕はKと会う度に必ず彼の噂《うわさ》をした。Kも、――Kは彼に友情よりもほとんど科学的興味に近いある興味を感じていた。
「あいつはどう考えても、永遠に子供でいるやつだね。しかしああ云う美少年の癖に少しもホモ・エロティッシュな気を起させないだろう。あれは一体どう云う訣《わけ》かしら?」
Kは寄宿舎の硝子《ガラス》窓を後《うし》ろに真面目《まじめ》にこんなことを尋ねたりした、敷島《しきしま》の煙を一つずつ器用に輪にしては吐《は》き出しながら。
四
彼は六高へはいった後《のち》、一年とたたぬうちに病人となり、叔父《おじ》さんの家へ帰るようになった。病名は確かに腎臓結核《じんぞうけっかく》だった。僕は時々ビスケ
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