だの搾取《さくしゅ》だのと云う言葉にある尊敬――と云うよりもある恐怖《きょうふ》を感じていた。彼はその恐怖を利用し、度たび僕を論難した。ヴェルレエン、ラムボオ、ヴオドレエル、――それ等の詩人は当時の僕には偶像《ぐうぞう》以上の偶像だった。が、彼にはハッシッシュや鴉片《あへん》の製造者にほかならなかった。
 僕等の議論は今になって見ると、ほとんど議論にはならないものだった。しかし僕等は本気《ほんき》になって互に反駁《はんばく》を加え合っていた。ただ僕等の友だちの一人、――Kと云う医科の生徒だけはいつも僕等を冷評《れいひょう》していた。
「そんな議論にむき[#「むき」に傍点]になっているよりも僕と一しょに洲崎《すさき》へでも来いよ。」
 Kは僕等を見比べながら、にやにや笑ってこう言ったりした。僕は勿論内心では洲崎へでも何でも行《ゆ》きたかった。けれども彼は超然《ちょうぜん》と(それは実際「超然」と云うほかには形容の出来ない態度だった。)ゴルデン・バットを銜《くわ》えたまま、Kの言葉に取り合わなかった。のみならず時々は先手《せんて》を打ってKの鋒先《ほこさき》を挫《くじ》きなどした。
「革命
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