彼
芥川龍之介
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)言わずとも好《い》い
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)窓|硝子《ガラス》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)結婚したのも去年だろう[#「結婚したのも去年だろう」に傍点]
−−
一
僕はふと旧友だった彼のことを思い出した。彼の名前などは言わずとも好《い》い。彼は叔父《おじ》さんの家を出てから、本郷《ほんごう》のある印刷屋の二階の六畳に間借《まが》りをしていた。階下の輪転機《りんてんき》のまわり出す度にちょうど小蒸汽《こじょうき》の船室のようにがたがた身震《みぶる》いをする二階である。まだ一高《いちこう》の生徒だった僕は寄宿舎の晩飯をすませた後《のち》、度たびこの二階へ遊びに行った。すると彼は硝子《ガラス》窓の下に人一倍細い頸《くび》を曲げながら、いつもトランプの運だめしをしていた。そのまた彼の頭の上には真鍮《しんちゅう》の油壺《あぶらつぼ》の吊《つ》りランプが一つ、いつも円《まる》い影を落していた。……
二
彼は本郷の
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