叔父さんの家から僕と同じ本所《ほんじょ》の第三中学校へ通《かよ》っていた。彼が叔父さんの家にいたのは両親のいなかったためである。両親のいなかったためと云っても、母だけは死んではいなかったらしい。彼は父よりもこの母に、――このどこへか再縁《さいえん》した母に少年らしい情熱を感じていた。彼は確かある年の秋、僕の顔を見るが早いか、吃《ども》るように僕に話しかけた。
「僕はこの頃僕の妹が(妹が一人あったことはぼんやり覚えているんだがね。)縁《えん》づいた先を聞いて来たんだよ。今度の日曜にでも行って見ないか?」
僕は早速《さっそく》彼と一しょに亀井戸《かめいど》に近い場末《ばすえ》の町へ行った。彼の妹の縁づいた先は存外《ぞんがい》見つけるのに暇《ひま》どらなかった。それは床屋《とこや》の裏になった棟割《むねわ》り長屋《ながや》の一軒だった。主人は近所の工場《こうじょう》か何かへ勤《つと》めに行った留守《るす》だったと見え、造作《ぞうさく》の悪い家の中には赤児《あかご》に乳房《ちぶさ》を含ませた細君、――彼の妹のほかに人かげはなかった。彼の妹は妹と云っても、彼よりもずっと大人《おとな》じみていた
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